2021年8月10日火曜日

2021年7月読書記録その他

【本】

・オセロー ウィリアム・シェイクスピア(松岡和子)
 第三者の嘘によって攪乱された関係性がどこに行き着くのかという興味で最後まで引っ張る。面白く読めた。

・学校の青空 角田光代
 いじめを仕向ける女生徒等おっと思う部分もあるが、全体にどうも凄みに欠け、デビュー初期の純文学作家が書きがちな小編の寄せ集めといった趣きだった。

・森に眠る魚 角田光代
 ママ友お受験通俗小説。特に言うことはない。

・水滴 目取真俊
 表題作はいいとも悪いとも思わなかったが、もう一方の中編は思いがけず男性間の性愛を匂わせる描写が登場して、どきりとした。不意打ちにこそ萌えは宿る。

・独り舞 李琴峰
 デビュー作。手堅くまとまっていて面白かった。作中に漢詩が登場すると高級な感じがするのは、漢語母語話者が日本語で小説を書く利点ではと思う。

・五つ数えれば三日月が 李琴峰
 小品といったところでやや物足りず。要素はいつもの李琴峰(台湾の農村出身、早稲田に留学、日本語教師、レズビアン、MTF、台湾で結婚する日本人女性の友人、等)。

・星月夜 李琴峰
 ウイグル族の女学生を巡っての三角関係。五つ数えれば〜は芥川賞にノミネートされたが、今作はされず。なぜ? こちらを候補にしてほしかった。

・ポラリスが降り注ぐ夜 李琴峰
 二丁目小説として面白く読んだ。ゲイはほぼ登場しないが、わたしの知っている二丁目がそこにあった。NYを感じたいときにSATCを見るように、二丁目を感じたいときにこの小説を読むといいと思う。

・虎に嚙まれて/カルメン/B・Fとわたし ルシア・ベルリン(岸本佐知子)●
 何がこんなにいいのかを言語化することは難しいが、いい。突き放したような語り口で、乾いていて、ユーモアと生命力がある。ぐっと引き込む力の不思議。

・新・東京23区物語 泉麻人
 SNSで出回ったスクショ画像の文面が面白く、読んでみた。笑える箇所もあるが、23区住民のステロタイプを抽出拡大して見せるやり方は古いな、とも思う。

・ヨーロッパ政治思想の誕生 将基面貴巳
 ド名著。13世紀末期から14世紀前半ヨーロッパにおける「政治に関する学」の成立を、12世紀中葉から15世紀初頭にかけてのヨーロッパ政治思想を三つの軸(権力論、政治共同体論、政治への学問的アプローチの方法)に沿って位置付けることによって探る。ある一元的な理論的枠組みに回収されず、多元的な観点が、いくつかの座標軸に沿って緊張感を保っていたという点こそがヨーロッパ的な政治思想の世界の「原像」であることが示される。参考文献を一覧するとわかる通り、分野の文献のほとんどは欧文であり、この内容を日本語で読めるのは有難い。洗練された簡潔な文体と説明のわかりやすさからすっかり将基面氏のファンに…(品切れ本を含めて全著作を爆買い)。

・「感想文」から「文学批評」へ 高校・大学から始まる批評入門 小林真大
 文学理論をざっとさらうにはいいが、単純化が過ぎるように思う。

【映画】

・ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY キャシー・ヤン 2020
 流行りなのだろうが、あまり女の連帯をわざとらしく打ち出されると白けてしまう。もう少し上手く処理してほしい。

・汚れなき祈り クリスティアン・ムンジウ 2012
 冗長で退屈だった。『4ヶ月、3週と2日』には地味で動きが少ない中にも見る者を引っ張る何かがあったのだが。

・なぜ君は総理大臣になれないのか 大島新 2020●
 ドキュメンタリーとして面白かった。エスタブリッシュメント家庭に生まれたわけではない普通の人が代議士になること、代議士であり続けようとすることの現実。

・機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 村瀬修功 2021
 エンタメとして及第点だが、原作が古いだけあってジェンダー観の古さが気になった。ボンド映画み。

・AKIRA 大友克洋 1988
 よく引用される大型バイクを急停止するシーンをようやく見られた。主人公はAKIRAじゃなくて金田なのですね。時折差し込まれる日本的音楽も効果を上げていて、総じてレベルが高かった。面白いかと問われるとちょっとわからない。

・魔術師 イングマール・ベルイマン 1958
 退屈な方のベルイマンだった。

・劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram 荒井和人 2021
 原作がスマホノベルゲーム(ストーリーに結びついた戦闘あり)のスタイルで完成されているものなので、上手に映像化するのはやはり難しいということをTV版バビロニアに続いて感じた。流石に作画がちょっと雑じゃない?というシーンが散見され、制作環境が心配に。

・スーパーノヴァ ハリー・マックイーン 2020
 文化的な職業で社会的成功を収めたゲイカップルの片割れが認知症になるのだが、コリン・ファース扮する熊系ゲイがあまりにもイケているし、英国湖水地方に美しい邸宅を構えられるだけの経済力も、素敵な家族や友人関係も手にしたのだからもうそれでいいではないか、という気になってしまう。

・竜とそばかすの姫 細田守 2021
 田舎の夏、高校生の自我と恋愛、スペクタクル的映像と感情を煽る音楽によるPV的演出等、細田守の夏映画に期待する要素が詰め込まれていたので、数々の問題点は措き、もうこれでいいではないかと思った。

・ミッション ローランド・ジョフィ 1986
 イエズス会宣教師たちの思想、グァラニー戦争を巡っての地域住民との連帯、スペイン・ポルトガル連合軍への抵抗は面白いが、16世紀末~18世紀にかけての150年余りの歴史をぐっと圧縮しており人物も架空のもので、そのまま歴史映画として見ることはできない。メーンの人物たち(スペイン語話者のはず)が始終英語で話していたが、ポルトガル人はポルトガル語を喋っていた。

・おおかみこどもの雨と雪 細田守 2012
 そんなにダメか? 普通に面白いと思ったが…。狼人間という設定で数々の問題点をクリアーしているので、そこをメタファーと捉えると問題だらけじゃないか、という話になるのはわかる。が、狼人間をあのような形で登場させた時点で、作品のリアリティ・ラインはそうした批判を受け付けない地点に引かれたのではなかろうか。

・ゴッドファーザー PARTⅢ フランシス・フォード・コッポラ 1990
 長い。前二作を含めて同じようなことをずっと繰り返している。若かりし日のソフィア・コッポラ扮するヤクザ者のお嬢がcocomiとkokiをない交ぜにした雰囲気でよかった。ボリュームのあるスカート。シチリア島は大きい(鉄道が敷かれている!)。

・サイダーのように言葉が湧き上がる イシグロキョウヘイ 2021
 八代目市川染五郎が主人公の声をあてるというので。わかりやすい青春+恋愛+夏映画なのだが、地味。絵柄のデフォルメが強く、青空の抜け感がないのが惜しかった。こういう映画で大事なの、そこでは。

【ドラマ、他】

・セックス・エデュケーション 2ndシーズン
 メイヴとオーティスがくっついてくれさえすれば後は何でもよかったのだが、二人はまたぞろすれ違い、関係性の行方は3rdシーズンへと引き継がれる。居残りからの女の連帯はちょっとわざとらしすぎないか。1stシーズンの"It's my vagina."くらいの処理がちょうどよかったし、心が動きもした。意地悪グループの女は今期もよい。

・20時過ぎの報告会 ヤチナツ
 SNSで流れてくる漫画はスマホでちらりと読むのがちょうどいい、という数万回目の学び。単行本化すると、厳しい。

ガリア戦記 羅英テキスト

■Completely Parsed Caesar
https://archive.org/details/CommentariesOnTheGallicWarCaesarCompletelyParsedBookI/page/n13/mode/2up
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